千原兄弟『チハラトーク５』

千原兄弟　トークライブDVD『チハラトーク５』

75点

彼らのコントライブ同様、そのテーマは日常の些末な疑問からなっている。
大袈裟にいえば社会批評ということになるが、その源泉は全てジュニアによる目線である。
受け手としての兄・セイジは彼の話を聞きながら、時に彼に食ってかかり笑いを誘う。が、それでもやはり見所はジュニアによる社会批評的笑いとその鮮やかな解決法から生まれる笑いだ。
ただ、このDVD中もっとも注目すべきは、そんなジュニアが自ら「批判的なことばかりを言っていてはダメだ。これからの笑いは肯定から生まれる」と言っているところ。常日頃、否定の笑いを繰り広げる彼にも、どこかにこういう気持ちはあったのだろう。興味深い。しかしそれでもステージ上で展開する笑いは社会批判から成立している。そもそもの性質が、彼はそうなっているのだろう。だが、それだけではただのウルサイ奴になってしまう。やはり兄・セイジ途方もない愛のような包容力があってこそ、彼らは成立する。
つまり類稀な才能を持つジュニアに自由を与えることのできる才能、兄のセイジにはそれがある。普段でのテレビ番組などでは、その役目を他の芸人たちが担っている。もしくはスタッフたち。制約された状況では、彼の才能は萎縮してしまうだろう。まだ、その点が、どんなに押さえつけられても笑いをもぎ取るダウンタウンや今田、東野との違いになる。
当然、このライブDVDでのジュニアは自由だ。そして単独ライブだからこそ、普段のテレビでは垣間見れない複雑な殴りあうような兄弟愛を感じるDVDとなっている。
手かせ足かせのないジュニアの繰り出すトークは、まさに神業に近い完成度を誇る。オチに対する布石の配置、構成、分量共に最適だ。ただ、もっともすばらしいのは、トークに対してオチの強弱をトークの最中に敏感に察知する点だろう。
笑いは水物だ。そうでもないと思っていたトークが、意外とウケるということがある。そういう場合は、テンションを上げることや繰り返すことで、笑いを会場の盛り上がりと同じレベルに持っていくことはたやすい。ただ、その逆の場合が難しい。ウケると思っていたトークがそうでもなかった場合、ムリにテンションを上げたりすれば、滑るのは目に見えている。ではどうするか。ジュニアはその判断がすこぶる早い。彼がウケないと判断した場合、彼はすぐに手を引く。それがあまりにも見事だ。人々は、彼が笑い話をしようとしたことすら気づかない。ジュニアの最大の魅力は確かにフリートークだが、最大の能力はその爆弾処理能力にある。